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【コラム】誹謗中傷と名誉毀損の違いとは?定義・事例・対処法

はじめに

インターネットやSNSの普及に伴い、「誹謗中傷」や「名誉毀損」という言葉をよく耳にするようになりました。実際、ネット上で誰かを傷つける発言をしたり、根拠のないデマを流布したりする行為によって、個人や企業の社会的評価が大きく損なわれるケースが増えています。

しかし、「誹謗中傷」と「名誉毀損」はどのように違うのでしょうか。両者とも他人の評価を下げるような言動を指しますが、法律上はそれぞれ明確な定義や要件があり、刑事責任や民事責任が発生する場合もあります。

本記事では、この2つの概念や具体的な対応策について、専門用語をなるべくかみ砕いて解説いたします。

  • 誹謗中傷
    主に他人を非難・悪口・侮辱などする行為の総称
  • 名誉毀損
    他人の名誉を損なう発言や記述を行うことで、法律上の責任が問われ得る行為

本記事をお読みいただくことで、「自分が被害に遭っているのは誹謗中傷なのか、それとも名誉毀損として法的手段をとれるのか」といった疑問や、「加害者として知らずに人の名誉を毀損してしまっているかもしれない」といった不安を解消するヒントをつかんでいただけると思います。

Q&A

Q1:誹謗中傷と名誉毀損は同じ意味ですか?

厳密には異なります。「誹謗中傷」は法律用語ではなく、一般的に他人を傷つける悪口や侮辱を指す言葉です。一方「名誉毀損」は刑法や民法で定められた法的概念であり、一定の要件を満たすと刑事罰や損害賠償の対象となります。

Q2:誹謗中傷がエスカレートすると名誉毀損になりますか?

可能性はあります。誹謗中傷と呼ばれる言動の中には、法律上「名誉毀損」の要件を満たすものが含まれます。名誉毀損罪が成立するためには「公然と事実を摘示したことによって他人の社会的評価を下げた」といった要件が必要です。

Q3:真実を言っただけでも名誉毀損になる場合がありますか?

はい、場合によっては成立する可能性があります。真実であれば常に名誉毀損に当たらないわけではありません。刑事事件としては「公共の利害に関する事実」であれば真実性の証明で違法性が阻却されますが、民事上の名誉毀損は別途の判断が必要です。また「わざわざ人前で公表する必要のない個人情報」を暴露すれば、プライバシー侵害や人格権侵害として責任を問われることもあります。

Q4:ネット上の悪口や嫌がらせコメントは名誉毀損にあたりますか?

一般的な感想レベルでは名誉毀損にあたらない場合が多いですが、他人の社会的評価を低下させる具体的な事実を示した場合や、明らかに虚偽の情報を広めた場合などは、名誉毀損が成立する可能性があります。コメントの内容や表現方法によっては侮辱罪や業務妨害罪に発展するケースもあるため注意が必要です。

Q5:名誉毀損に該当したら、どのような責任を負う可能性がありますか?

刑事責任としては「名誉毀損罪」(刑法230条)や「侮辱罪」(刑法231条)等で罰せられる場合があります。民事責任としては損害賠償請求の対象となり、慰謝料や弁護士費用などを支払うリスクが生じます。

解説

ここからは、誹謗中傷と名誉毀損の違いや、両者が法律上どのように扱われているのかをより詳しく見ていきます。一般の方にもイメージしやすいよう具体例を交えながら解説します。

誹謗中傷とは

「誹謗中傷」は法律用語ではありません。一般的には、他人の悪口や根拠のない噂を流す行為、人格を否定するような発言をする行為など、人を貶める意図をもつ言動を指します。ネット上であれば、SNSや掲示板などでの書き込みが典型的な例です。誹謗中傷の内容がエスカレートすると、犯罪や民事上の不法行為に該当する可能性があります。

具体例
  • SNSのコメントで「あいつは最低の人間だ」「死ね」「バカ」など人格を否定する表現
  • 個人ブログで特定の人を「詐欺師」と呼び続けたり、虚偽の事実を断定的に書き込む
  • 複数のアカウントを使って執拗に悪口を書き込み、被害者を追い詰める行為

誹謗中傷は、多くの場合、社会的評価を低下させる目的や、単なる嫌がらせ目的で行われます。被害者からすると、精神的な苦痛を受けるだけでなく、職場や学校など人間関係にも重大な影響を及ぼすため、決して軽視できるものではありません。

名誉毀損とは

「名誉毀損」は、刑法や民法で規定されている法的概念です。社会的評価を不当に下げるような事実を、公然と指摘する行為が該当します。名誉毀損罪(刑法230条)では「公然と事実を摘示」することが要件となりますが、これは「多数または不特定の人が認識できる状態」で、客観的に確認できる事実を提示することを指します。

名誉毀損罪成立の要件(刑事)
  1. 事実の摘示
    特定の事実を示す。単なる感想(「嫌い」「気に食わない」など)ではなく、虚偽か真実か判断できる内容であること。
  2. 公然性
    不特定または多数の人が認識できる状態であること(SNSへの投稿、ブログでの発信などが典型)。
  3. 他人の名誉を毀損したこと
    社会的評価を低下させる内容であること。

一方、民事の名誉毀損では、刑事上の要件とはやや異なる基準で「不法行為」が認定されます。たとえ真実を述べた場合でも、公共性のないプライベートな情報を暴露したり、表現方法が過度に攻撃的であったりすると、名誉感情を侵害したとして損害賠償責任が生じる場合があります。

誹謗中傷・名誉毀損の境界

「誹謗中傷」と「名誉毀損」は完全に別物ではなく、誹謗中傷の中でも、法律上の要件を満たす場合に名誉毀損が成立すると考えるとわかりやすいでしょう。一般的に、誹謗中傷は「加害的な言動の総称」、名誉毀損は「刑事・民事責任が問われる具体的な要件を満たした行為」という位置づけです。

誹謗中傷(広い概念)
  • 人に対して悪意のある言動を行うこと全般を指す
  • 法律上の用語ではない
名誉毀損(法的概念)
  • 誹謗中傷の中でも社会的評価を低下させる具体的な事実を公然と摘示した行為
  • 刑事罰や損害賠償請求の対象となる場合がある

事例:どんなケースが名誉毀損に当たる?

例えば、SNSで「Aさんが会社の金を横領しているらしい」「あの店のオーナーは詐欺グループとつながっている」と具体的な事実を断定的に投稿し、周囲に信じ込ませるような書き込みをした場合、名誉毀損として成立する可能性があります。特に、事実無根であれば被害者の社会的信用を大きく傷つけるため、刑事告訴や損害賠償請求のリスクがあります。

一方で「Aさんは嫌い」「あの店は雰囲気が悪い」といった抽象的な感想は、名誉毀損罪の要件である「事実の摘示」がないため、通常は名誉毀損には当たりにくいといえます。しかし、その書き込みが執拗であったり、脅迫や侮辱に該当したりする場合には、別の犯罪(侮辱罪や脅迫罪)として刑事責任を追及される可能性があります。

ネット時代の深刻化する誹謗中傷問題

インターネット上でのやりとりは、匿名性が高く、拡散力が非常に大きいという特徴があります。そのため、一度書き込まれた誹謗中傷や名誉毀損的な情報が短時間で多くの人の目に触れ、被害が拡大しやすいという問題点があります。

また、ネット上でのデマや虚偽情報は、半永久的に残る可能性があるため、被害者の社会的信用が長期にわたって損なわれたり、精神的苦痛が持続したりするケースが少なくありません。企業であれば、ブランドイメージが低下したり、顧客が離れたりといった経済的打撃に直結することもあります。

法的責任を問われないための注意点

SNSや掲示板で気軽に投稿する時代だからこそ、発信者は以下の点に注意する必要があります。

  1. 情報の真偽を確認する
    流れてきた情報を鵜呑みにせず、自分が投稿する内容が真実なのかをきちんと調べること。
  2. 表現方法に配慮する
    事実を述べる場合でも、必要以上に攻撃的な表現で相手を貶めるような書き方は避ける。
  3. 公共性の有無を考慮する
    社会全体にとって重要な問題提起であるのか、それとも単なる私的な暴露や嫌がらせなのかを区別する。
  4. プライバシー権や著作権にも配慮
    他人の個人情報を無断で公開する行為や、画像・動画を無断でアップする行為は、名誉毀損以外の法的問題を引き起こす可能性がある。

弁護士に相談するメリット

適切な法的アドバイスが得られる

誹謗中傷や名誉毀損の被害を受けた場合、感情的になってしまい、被害届や告訴状の提出手続きを誤るケースがよくあります。ネット上のトラブルは証拠収集がポイントとなるため、専門家に相談することで「いつ」「どのような形で」「どのサイト・SNSに」「どのような証拠を提出すべきか」といった的確なアドバイスを得られます。弁護士法人長瀬総合法律事務所にはネットトラブル対応の経験豊富な弁護士が在籍しており、安心してご相談いただけます。

発信者情報開示請求など専門的手続きを任せられる

匿名の書き込みで誹謗中傷を受けた場合、プロバイダ責任制限法に基づいて発信者情報開示請求を行い、投稿者を特定する必要があります。これは裁判手続きが絡む専門的なプロセスを踏むため、弁護士に依頼することでスムーズに進められます。必要に応じて捜査機関と連携し、刑事事件に発展させることも検討できます。

迅速な削除依頼や差止め対応が可能

違法な書き込みによる被害を最小限に食い止めるには、早期の削除依頼が重要です。弁護士に依頼すれば、運営会社やプロバイダに対して正式な法的文書を送付できるため、被害が拡大する前に対処できる可能性が高まります。また、悪質な投稿や拡散行為を継続して行う加害者に対しては、差止めを求めることもできます。

損害賠償請求や和解交渉のサポート

名誉毀損が成立した場合、被害者は損害賠償請求を検討できます。弁護士が代理人となり、加害者との示談交渉を行うことで、適正な賠償金や謝罪文の獲得が期待できます。被害者自身が直接交渉を行うと感情的な対立が深まりやすいですが、弁護士を介することで冷静かつ的確な解決を図れます。

まとめ

  • 誹謗中傷は法律用語ではなく、人を傷つける悪口や嫌がらせ発言など広範囲の言動を指す。
  • 名誉毀損は刑法や民法で定められた厳密な法的概念で、公然と事実を示して他人の社会的評価を低下させる行為をいう。
  • ネット時代には匿名性と拡散力の高さから、誹謗中傷が深刻化しており、被害者の精神的ダメージや企業の信用低下など被害も拡大しやすい。
  • 被害を受けた場合は証拠を集め、早期に専門家へ相談することで適切な法的対応(発信者情報開示請求、削除依頼、損害賠償請求など)が可能になる。
  • 加害者側も、安易な書き込みが名誉毀損や侮辱罪などの刑事責任、損害賠償の対象となるリスクがあることを認識し、情報の真偽や表現には十分な注意が必要。

誹謗中傷・名誉毀損は誰にとっても起こり得る問題です。もし心当たりのある方は、早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所など専門家へ相談してみてください。


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この記事を書いた人

⻑瀬 佑志

⻑瀬 佑志

弁護士法人「長瀬総合法律事務所」代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)。約150社の企業と顧問契約を締結し、労務管理、債権管理、情報管理、会社管理等、企業法務案件を扱っている。著書『コンプライアンス実務ハンドブック』(共著)、『企業法務のための初動対応の実務』(共著)、『若手弁護士のための初動対応の実務』(単著)、『若手弁護士のための民事弁護 初動対応の実務』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が書いた契約実務ハンドブック』(共著)、『現役法務と顧問弁護士が実践しているビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(共著)ほか。

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