名誉毀損の成立に必要な要件(真実性・公益性など)
はじめに
近年、インターネットの普及やSNSの拡大に伴い、個人や企業が名誉毀損(めいよきそん)の被害に遭うケースが増えています。誹謗中傷や虚偽情報によって社会的評価を下げられた場合には、刑事事件(名誉毀損罪)や民事事件(損害賠償請求)として法的責任を追及することが可能です。
しかし「名誉毀損」という言葉を耳にしても、具体的にどのような要件で成立するのか、真実を言った場合でも罪に問われるのか、公共の利害が絡む場合はどうなるのか、といった点についてはあまり知られていないかもしれません。名誉毀損罪(刑事)や民事上の名誉毀損(不法行為)は、それぞれ成立に必要な要件や争点が存在し、さらに「真実性の抗弁」「公益性の有無」といった要素が大きく影響します。
本稿では、名誉毀損の成立要件を中心に、「真実性」「公益性」「違法性阻却事由」などのポイントをわかりやすく解説します。個人・法人を問わず、名誉毀損がどのように認定されるかを理解し、適切な対応策を検討するための参考にしていただければ幸いです。
Q&A
Q1:名誉毀損とはどのような行為を指しますか?
不特定または多数の人が認識できる場で、特定の個人や法人の社会的評価を低下させるような「事実」を示す行為を指します。これにより相手の名誉(社会的信用)が害されると、刑法上の名誉毀損罪または民事上の名誉毀損が成立する可能性があります。
Q2:真実のことを書いても名誉毀損になることはあるのですか?
はい、場合によっては成立します。刑事事件としては「公共の利害に関する事実」を真実と証明できれば、違法性が阻却される可能性がありますが、すべてが免れるわけではありません。民事でも表現方法や公開範囲によっては名誉感情の侵害が認められることがあります。
Q3:公益目的の暴露であれば名誉毀損になりませんか?
「公共の利害に関する事実」であり、「その事実が真実だと証明できる」「行為の目的が専ら公益を図ることにあった」などの要件を満たせば、違法性が否定される場合があります。しかし、単に私的な利益や悪意・嫌がらせ目的での暴露であれば名誉毀損に該当し得ます。
Q4:誹謗中傷でよく言われる「侮辱罪」と名誉毀損の違いは何ですか?
名誉毀損は「事実の摘示(真偽を判断できる具体的内容)」がポイントです。一方、侮辱罪は「バカ」「クズ」など抽象的評価によって相手の名誉を傷つける場合が該当します。もっとも、侮辱罪より名誉毀損罪のほうが刑の重さは上です。
Q5:ネット上で「○○会社は経営が危ないらしい」などの噂を拡散すると名誉毀損になる?
その噂が根拠のないデマであったり、信憑性を確認せずに拡散した場合、企業の社会的評価を下げる行為として名誉毀損が成立する可能性があります。真実であっても、公益目的がない単なる流布であれば問題視されることがあります。
解説
名誉毀損罪と民事上の名誉毀損
名誉毀損罪(刑法)
刑法230条に基づく犯罪で、公然と事実を摘示し、相手の名誉を毀損した場合に成立します。罰則は3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金です。
- 公然性:不特定または多数の者が認識できる状況
- 事実の摘示:真偽を判断できる具体的な内容を提示
- 名誉を毀損したこと:社会的評価が下がる内容
民事上の名誉毀損(不法行為)
民法709条に基づき、名誉を侵害した行為が不法行為となります。刑事と同様の要件が争点になりますが、真実であっても被害者の名誉感情を違法に害したかどうかなど、より幅広い観点から責任が問われます。損害賠償請求(慰謝料など)の対象となり得ます。
名誉毀損の成立要件
1. 公然性
- 多数の人が閲覧可能なSNSや匿名掲示板、ブログなどに投稿すると公然性が認められやすい
- 特定少数に送るだけでは公然性が否定される場合もある
2. 事実の摘示
- 「○○さんが横領した」「××社が違法行為をしている」など、具体的な事実関係を示す
- 単なる抽象的な罵倒(「バカ」「嫌い」など)は侮辱罪の可能性はあっても、名誉毀損の要件を満たしにくい
3. 相手の名誉を毀損したこと
- 投稿内容が対象者(個人・法人)の社会的評価を下げるおそれがあるか
違法性阻却事由:真実性・公益性
名誉毀損罪が成立する前提として、「違法性阻却事由」が争点となることがあります。具体的には以下の要件を満たすと、刑法上は処罰されない可能性があります(刑法230条の2)。
1. 公共の利害に関する事実であること
- 例:政治家や公的機関、公共サービスに関連する問題
- 単なる私的な噂やゴシップは該当しにくい
2. 目的が専ら公益を図ることにある
- 社会正義や公共性を守るために事実を指摘した場合
- 個人的な恨みや営利目的のみでの暴露は該当しない
3. 摘示した事実が真実であるか、真実と信じるに足る相当な理由があること
- 証拠や取材活動などで相応の確証を得たうえで公表した場合は成立しない可能性
- ガセネタや伝聞をそのまま流布すると違法性阻却は難しくなる
真実でも責任を負う場合
- 民事上の名誉毀損
刑事上は違法性が阻却されても、民事では別の観点から損害賠償責任を問われるケースがあります。たとえばプライバシー侵害の問題や、表現が不必要に侮蔑的であるなどの事情によって、名誉感情を侵害したと評価される場合です。 - 個人情報の暴露
たとえ真実であっても、個人の私生活の情報や病歴、経済状況など、他人に公表する正当性が乏しい情報を暴露すれば、プライバシー権や肖像権の侵害として違法性が問われる可能性があります。
よくある誤解
- 「真実ならなんでも言って良い」は誤解
真実性・公共性・公益目的の要件をすべてクリアすることが必要。私的な目的での暴露は違法性阻却が難しい。 - 「匿名だから安全」は大きな間違い
SNSや匿名掲示板であっても投稿者情報の開示請求が行われ、名誉毀損が成立すれば刑事罰や損害賠償が科される。
弁護士に相談するメリット
正確な法的評価と証拠収集のアドバイス
- 名誉毀損が成立するかどうか、違法性阻却事由が認められそうかを専門知識に基づいて判断
- 必要な証拠(書き込みのスクリーンショット、アクセスログ、相手とのやり取りなど)の整理・保全方法を提案
削除依頼や発信者情報開示請求のスムーズな実施
- ネット上での名誉毀損被害は放置すると拡散して被害が拡大するため、早期対応が必須
- 弁護士名義の通知書で管理者やプロバイダに正式に削除依頼・開示請求を行い、迅速な対応を実現
示談交渉や訴訟手続きの代理
- 加害者との交渉は感情的な対立がエスカレートしやすいが、弁護士が間に入ることで冷静なやり取りが可能
- 証拠と法律に基づいて損害賠償請求を行い、適切な金額・謝罪文などを得られるようサポート
刑事告訴のサポート
- 特に悪質なケースや重大な被害がある場合、刑事告訴・被害届の提出を検討
- 弁護士が告訴状を作成し、捜査機関との連携を円滑に進められる
まとめ
名誉毀損の成立要件は、「公然と事実を摘示し、相手の社会的評価を低下させる行為」を満たすかどうかが大きなポイントです。さらに、刑事上では「公共の利害に関する事実」「真実性の証明」「公益目的」などの要件を満たすと違法性が否定される場合があります。
しかし、真実を伝えたとしても、方法や目的次第では民事上の損害賠償責任が問われるケースがあることに注意しましょう。ネット上の誹謗中傷をはじめとする名誉毀損トラブルは、加害者・被害者双方が大きなリスクを背負う結果となりえます。
少しでも不安を感じたり、実際に被害に遭った場合には、お早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。専門家に依頼することで、適切な法的手段や証拠収集、削除依頼などをスムーズに行い、トラブルの拡大を最小限に抑えることができます。
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