犯罪としての名誉毀損と民事責任の違い
はじめに
「名誉毀損」は刑法にも民法にも規定があるため、どのように処罰や責任が発生するのか、混乱される方も多いかもしれません。SNSやブログなどで他人の名誉を傷つける投稿を行うと、刑事事件としての名誉毀損罪が問題になる場合と、民事上の損害賠償義務が発生する場合があります。
「刑事事件として警察に被害届を出す」「民事訴訟で慰謝料を請求する」など、被害者がどのような対応を選ぶかによって、手続きや結果は大きく異なります。被害者・加害者双方にとって、「犯罪としての名誉毀損」と「民事責任としての名誉毀損」の違いを理解することは非常に重要です。
本稿では、名誉毀損罪の刑事責任が問われる場合と、民事上の損害賠償請求が争われる場合の違いを、具体的に解説していきます。犯罪として成立する要件、処罰の重さ、民事で求められる賠償の内容などを整理することで、ネット上の誹謗中傷トラブルに備える一助となれば幸いです。
Q&A
Q1:名誉毀損罪と民事の名誉毀損は別々の手続きなのですか?
はい。名誉毀損罪は刑事事件であり、警察や検察が捜査して起訴・判決を行う手続きです。一方、民事上の名誉毀損は、被害者が損害賠償を請求するために訴訟を起こす手続きとなります。両者は独立して進む場合もあれば、並行して進行する場合もあります。
Q2:名誉毀損罪が成立すると、必ず懲役刑や罰金になりますか?
有罪判決が確定すれば、3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金刑が科される可能性があります。ただし、初犯や軽微な事案では罰金刑や執行猶予付きの判決になるケースもあります。示談が成立すると刑が軽くなる場合もあります。
Q3:刑事事件にならなかった場合、民事で慰謝料を請求できますか?
可能です。刑事事件で不起訴となった場合でも、民事上の名誉毀損の要件を満たしていれば、損害賠償請求を認める判決が出る場合は十分にあります。刑事と民事は判断基準が異なるため、片方が成立しなくても他方が成立するケースがあります。
Q4:名誉毀損罪の被害届や告訴は、警察が簡単に受理してくれるものですか?
実際には、警察が積極的に捜査を開始するかどうかはケースバイケースです。証拠が不十分だったり、被害が軽微と判断されたりすると、捜査が進みにくい場合もあります。弁護士のサポートを得て、適切な形で告訴状を提出することが望ましいです。
Q5:民事と刑事、どちらの手段を選ぶべきなのでしょうか?
事案の内容や被害者の求める結果によって異なります。加害者への刑罰を重視するなら刑事告訴、金銭的救済や謝罪を求めるなら民事訴訟が主となるケースが多いです。場合によっては両方を並行して進めることもありますので、弁護士に相談して方針を決めるのが賢明です。
解説
犯罪としての名誉毀損
- 成立要件
刑法230条において「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」した場合に成立します。真実性・公益性の有無によっては「違法性阻却事由」が適用されることもあります。 - 親告罪
名誉毀損罪は原則として「親告罪」であり、被害者の告訴がなければ起訴されません。ただし「公共の利害に関する事実に関して死者の名誉を毀損した」場合など、例外も存在します。 - 処罰の範囲
有罪となれば「3年以下の懲役もしくは禁錮、または50万円以下の罰金」です。悪質性や前科の有無によって量刑が変動します。初犯や軽度事案であれば罰金刑や執行猶予となる場合が多いです。
民事責任としての名誉毀損
- 民法上の不法行為
民事訴訟においては「不法行為により他人に損害を与えた」と認められれば、損害賠償責任が発生します。ここでの名誉毀損は社会的評価の低下や名誉感情の侵害が認められれば成立し得ます。 - 賠償の内容
- 慰謝料:被害者が受けた精神的苦痛に対する損害賠償
- 営業損害:法人の場合は売上低下や取引停止による損害
- 謝罪広告:判決で加害者が謝罪広告の掲載を命じられるケースもあり
- 立証責任
被害者が加害者の不法行為(名誉毀損)と損害との因果関係を主張・立証しなければなりません。
刑事と民事で結果が異なる理由
- 目的の違い
刑事事件は「国家が犯罪を処罰すること」で社会秩序を維持することが目的。一方、民事事件は「個人間の紛争を解決すること」が主目的。 - 証拠のハードルの違い
刑事裁判では「疑わしきは被告人の利益に」の原則があるため、有罪認定には高い証明レベル(合理的な疑いを超える証明)が求められる。民事では「おおよそ事実上の確からしさ」が認められれば足りる。 - 処分の内容の違い
刑事裁判では懲役や罰金といった刑罰が科される。民事裁判では金銭的賠償や謝罪広告などを命じられる。
並行して進む場合
- 捜査と民事訴訟の併行
名誉毀損の被害者が警察に告訴する一方で、並行して民事訴訟を起こすこともあります。加害者特定が終わるのを待たずに、仮処分や発信者情報開示請求を進めるケースも少なくありません。 - 示談の影響
刑事事件で示談が成立すると、不起訴や執行猶予判決となる可能性が上がります。民事裁判においても示談で解決すれば、公の裁判にはならず、一定の金額や謝罪で合意して終了となります。
加害者・被害者双方にとっての注意点
加害者側
- 刑事罰を受けるだけでなく、損害賠償で高額を請求されるリスク
- 会社や家族、社会的地位を失う恐れ
- ネットは匿名と思いきや、発信者情報開示請求により特定される可能性が高い
被害者側
- 刑事は告訴・被害届提出の準備と、捜査協力が必要
- 民事は訴訟提起のための費用と労力がかかる
- 示談交渉をどの段階で行うかは戦略的な判断が求められる
弁護士に相談するメリット
最適な手段の選択と戦略立案
刑事・民事をどう使い分けるか
加害者に対して重い刑罰を求めるのか、金銭的補償を重視するのか、あるいは両方を狙うのか。弁護士が事情を聞き取り、被害者の意向に沿った最適な方針を提示します。
告訴状作成や捜査機関との連携
- 刑事事件を進めたい場合、証拠の整理や告訴状の作成に専門的なノウハウが必要
- 弁護士が警察や検察への対応をサポートし、捜査を円滑に進められるよう協力
民事訴訟・示談交渉の代理
- 裁判手続き
訴状や準備書面の作成、口頭弁論での主張立証など、弁護士が専門的知識をもって進める - 示談交渉
被害者本人が感情的にならず、適切な金額・謝罪文の獲得をめざすことが可能
発信者情報開示請求や差止め
- ネット上の書き込みが匿名の場合、加害者を特定するための発信者情報開示請求が不可欠
- 書き込み削除や再発防止のための差止め仮処分など、迅速な手続きが求められる
まとめ
犯罪としての名誉毀損
- 刑法上は親告罪(被害者の告訴が必要)
- 有罪になると懲役や罰金刑が科される
- 公益性や真実性の有無で違法性が阻却される可能性
民事責任としての名誉毀損
- 被害者が不法行為に基づく損害賠償請求を提起
- 慰謝料や営業損害などの請求が認められる
- 真実性・公共性があっても名誉感情侵害が認められる場合は賠償義務が生じることがある
刑事・民事の違いを理解しよう
- 刑事:処罰を求める手続き
- 民事:金銭的補償や謝罪を求める手続き
両者は並行して行うことも可能ですが、どちらを重視するかは被害者の状況や目的次第です。誹謗中傷の被害を受けたら、まずは証拠を確保し、お早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談いただくことで、最適な手段を選択できます。
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